税務調査はどれくらい行われているか?
国税庁は「税務行政の現状と課題」というレポートを毎年、発表しています。 平成30年に発表された同レポートによると、法人実調率(実地調査の件数を対象法人数で除したもの)は3.2%、個人の場合は1.1%となっています。
単純計算でベースを割り出すと、法人の場合はおよそ30年に1回、個人の場合はおよそ100年に1回です。
平成元年では法人8.5%、個人2.3%でしたから、実地調査は減っていると言えます。 原因は、申告件数の増加などによって税務署の業務量が大幅に増加しているからです。
さらに、平成25年に国税通則法が改定されたことで税務調査の手続きが煩雑になり、さらに税務調査が減る傾向にありました。
そのため、税務調査の件数を増やすのは、国税庁の大きな課題です。また、税務調査官には税務調査件数のノルマが課されていますから、余計に「1件あたりにかける時間を短くしたい」という希望があります。
つまり、税務調査を早く終えたいわけです。 税務調査がスピーディに終了するのは、経営者にとっても願ったり叶ったりですから、その意味でも事前準備が大切になります。
最近の税務調査の傾向 少し前までは平成25年の国税通則法の改正で税務調査の進め方が変わったことから、税務署や税務調査官にも制度に不慣れな部分が見られましたが、最近ではしっかり制度運用し始めています。
改正により変わったのは、調査の連絡が来る時期です。税務署は7月10日に人事異動がありますから、以前は8月上旬からお盆明けくらいに税務調査の連絡が来ることが多くありました。
しかし改正で税務調査の件数が減ってしまったので、異動する前の6月下旬ぐらいには、7月以降の調査の連絡が来ることも見受けられるようになりました。
調査件数を増やすためにお尋ね、いわゆる簡易調査が増えました。改正で時間のかかる臨場調査を多く行うことは難しくなりました。
一方で、国税庁は件数を増やそうと力を入れていますから、簡易調査で件数を増やそうとしています。 実調率が1%の社会と30%の社会では、後者のほうが課税の公平が保たれるのは当然ですか ら、今後もこの流れは続いていくでしょう。
また、さらに、最近はITやパソコンに強い税務調査官が増えてきたことが見逃せない傾向です。
税務署は情報漏洩等の理由から、パソコンの普及が遅く、ひと昔前まではパソコンが苦手な税務調査官がほとんどでしたが、現在は国税局にもサイバーチーム(電子取引専門調査チーム)が設置される時代です。パソコンのフォルダ、メールのチェックは当然行いますし、強力なファイルの復元ソフトを使用したりもします。
「税務調査ではパソコンは見られない」というのはすでに昔の話。あの手この手で証拠を探されると考えておいたほうがよいでしょう。 改正で強化されたことを抑えておく 改正により変わったのは、調査件数だけではありません。調査が強化された面もあります。
消費税の調査の強化 免税店や外注費、不正還付など、制度の乱用をしていないかどうかは厳しくチェックされるようになりました。 以前、マンションを建てる前に自動販売機を置き、多額の消費税還付を受けるのが節税手法として行われていましたが、これは現在、制度の乱用とされています。
海外取引の強化 国外所得、外国資産、非居住者などに関する海外取引も強化されています。 特に非居住者については、裕福な人が非居住者になって相続税などを免れる武富士事件(最高裁で納税者の勝訴が決定)などもあり、監視の目が厳しくなっています。
無所得申告・無申告調査の強化 以前は申告書が提出されたものに対しての調査が中心でした。これは無申告に対しては情報が少なくて調査しづらいという事情があったことは否めません。
しかし、KSKシステム(国税総合管理システム)が導入されたことなどで情報量が増え、統合された結果、無所得申告、無申告調査が強化されています。
富裕層への対応 国税庁による富裕層の定義は発表されていませんが、日本経済新聞(2015 年9月13日)によると、約2万人が該当すると言われています。
- 有価証券の年間配当4,000万円以上
- 所有株式800万株(口)以上
- 貸金の貸付元本1億円以上
- 家などの不動産所得1億円以上
- 所得合計額が1億円以上
- 譲渡所得および山林所得の収入金額10億円以上
- 取得資産4億円以上
- 相続などの取得財産5億円以上
- 非上場株式の譲渡収入10億円以上、または上場株式の譲渡所得1億円以上かつ45歳以上の者
- 継続的または大口の海外取引がある者
平成28年1月から施行された税制改正
平成28年1月から施行された税制改正では、「財産債務調書」の提出も義務づけられました。財産債務調書とは、確定申告時に保有している宝飾品を含む財産や債務などについて報告するものです。 提出しなければならないのは、次のいずれにも該当する人です。
・その年分の各種所得金額の合計額が2000万円を超える(退職所得をのぞく)
・その価額の合計額が3億円以上の財産、もしくは有価証券で1億円以上 財産債務調査は以前からありましたが、提出は任意でした。現在は義務になっていますので、提出しないとペナルティが課されます。必ず、提出するようにしましょう。
税務調査先の対象となる会社はどう決まる?
国税局はKSKという国税総合管理システムに、納税者から提出された申告書や法定調書などの情報をストックしています。
これらの情報はすべての国税局、税務署から見られるようになっていて、税務調査の対象となる会社の選定もKSKをベースにして行っていると言われています。
このKSKでチェックされ、税務調査の対象とされやすい会社は次のとおりです。 数字に大きな変動がある会社 売上が極端に伸びていたり、粗利が大きく上下動している会社は税務調査が入りやすいと言えます。
もちろん、経営をしていると何かの事情で数字が大きく動くことはあります。あらぬ疑いをかけられないためには、確定申告時に添付する「事業概況書」で、数字が動いた理由などをしっかり伝えることがポイントです。
会社の評価ランクが低い会社 KSKシステムでは、会社の評価ランクも記録されていて、次のように3グループに分かれています。
第1グループ・・・申告内容や納税が良好と判定された法人
第2グループ・・・第1、第3以外の法人
第3グループ・・・過去の一定期間に不正を行い、重加算税を支払った法人。反社会的勢力が絡む法人もここに記録されている 当然ながら、第3グループと評価されてしまうと、税務調査が行われる機会が多くなると言えます。
国税局、税務署が指定した重点調査業種 国税局では申告内容や資料情報などを検討して、重点的に調査する法人を選定しています。
特に不正割合が多いと言われている業種、業績がよい業種などは重点調査業種にされやすいと言えます。
建設・建築業、自由診療の医療系(接骨院含む)、インターネット関係(オークションやFX等)、飲食店(バーやクラブ等含む)、風俗業(特に無店舗型は要注意)は税務調査が多いとされています。