会計事務所職員の意識や勤務事情をクローズアップ!事務所に出所しない働き方
ネットワーク技術の進化により、最近では様々な業種で” 会社に出社しない”新しい働き方が取り入れられています。会計事務所業界でも入手不足の解消や所員の定着のため、事務所以外の場所で働くことをよしとする「テレワーク」を活用する事務所が増えているようです。
有望な人材を確保
会計事務所がテレワークを導入するのは、どういう事情からなのでしょうか。最初にご紹介する50代・男性所員の方が語ってくださった理由には、すべての会計事務所に共通する、ある「悩み」がありました。「私の事務所では、長年働いていたベテランの所員が定年で退職して、新しい人を探していました。ですが、会計事務所に限ったことではないのでしょうが、なかなか良い人材に巡り会うことができませんでした。そうした中、ある入所希望者の方は30代前半と若いながらも実務経験が豊富で、本人も働きたがってくれていましたが、二人のお子さんを抱えて育児の最中ということが大きなハードルになりました。
確定申告時の多忙期にも夕方4時には帰らせてほしいという希望をそのまま受け入れる訳にはいかず、本人もこんな都合のいい条件では、どこも雇っていただけませんよねと落胆されていました。そこで所長がテレワークによる在宅勤務に踏み切ったのです。在宅勤務に対応したシステムを導入し、ほとんどの仕事は自宅でしてもらい、週に一度だけ事務所に出勤してもらうというスタイルで働いてもらっていますが、本人からは非常に感謝されています。
この対応を基に、その後の求人にもテレワークを打ち出したところ、多くの人が応募してくださるようになりましたとのことです。働きたいという意欲が高くても、家庭の事情を優先しなければならない時もあります。「事務所に出所する」という縛りをなくすことで、子育てに則した働き方、雇用の形が実現したというお話でした。
効率もアップ!
テレワークは場所に囚われない自由な働き方ができますが、一方でそれぞれの仕事に目が届きにくくなるという側面も持っています。導入事務所はどのように業務管理をしているのでしょうか。とある事務所の60代・男性所員の方に伺いました。「うちの事務所では、始業時と終業時の報告メールと1日の進捗状況の詳細な報告だけはルールとして決めていますが、業務の内容に関してはかなりの裁量を持たされていると思います。これはテレワ
ーク導入の際に、『いちいちメールで細かいことをやりとりするのは無駄。今後は各自の判断によって仕事を進めるように』と所長が定めたものです。所員に対する信頼に喜びを感じましたが、すぐに責任をこれまで以上に持たされていることに気付きました。裁量があるといっても、放任ではありません。基本的には、始業から終業までの在席時間をクラウド式のコミュニケーションツールによって記録し、勤怠管理します。また、テレワークをする時には事前に業務内容を申請し、後に申請された業務内容と成果物の照らし合わせが行われます。事務所外での作業にも、当然効率性などが求められますので、マネジメント能力も一段高いものが必要になります。
その評価は査定にもしっかり反映されるので、仕事に対して以前より積極的になった所員も少なくありません。また、所員によって業務のスキルはかなり遣いますので、新人のうちは細かく連絡させて指示を徹底し、中堅以上になると裁量を与えるというメリハリを付けているとのこと。
テレワークでは、運用のルール作りや管理方法が重要になりますが、裁量付与のさじ加減を工夫して、所員の意欲向上につなげているというお話でした。
お互いの強みを生かす働き方
次にご紹介する40代・女性所員の方も、家庭の事情でフルタイムの勤務が難しくなった一人です。必要に迫られて取り入れたテレワーク制度に事務所全体に副次的な効果をもたらしたと言います。「今の事務所に20年以上勤めてきましたが、数年前に親の介護のために実家に戻らざるをえなくなりました。そんな時に、テレワークという取り組みがあることを知ったのです。無理を承知で所長にお願いしてみたところ、『今後同じような事情の所員も増えるだろう』と言ってくださり、事務所全体でテレワークを導入することになりました。強みの部分に専念できるのはとっても良いことだったと思いますと、事務所に私のように実家が離れたところにあると、週に一度の事務所出勤も難しいケースがあります。そのため私の事務所では、業務全体を見直し、在宅でできる仕事と語ってくださいました。
止むに止まれぬ事情からのスター卜だったようですが、 内勤と在宅の分担を人に会わなければ進められない仕事を分け整理することで、各所員の強みが発揮できて、完全分業制を採ることができる体制が構築できたというお話でしした。もちろんメールや電話などで細く意思の疎通を図ることは欠かせません。が、私が常に家族の傍にいながら仕事を続けられているのはそのおかげです。また、テレワークによって副次的な効果も得ることができました。それは、人に会って話すのが向いている所員と、黙々と処理をこなすことに能力を発揮する職員の適性がわかったことです。
証憑類のペーパーレス化
会計事務所という職務の特性上、テレワーク導入につきまとう課題もあるようです。その代表的なものが「紙の領収書」。「自計化を進めて、会計データなどをご提供いただける顧問先のお客様が増えつつあるものの、いまだに多くのお客機と紙の領収書のやり取りがあります。このような事案こそ「会計事務所のテレワーク」チャンスになるのではないでしょうかとのことで、確かに、紙の証想類票が存在すればそれに対する処置が必要です。
税務証憑類の電子保存について制度が定まり書類の電子保存は年々やりやすくなりつつある今日、思い切った取り組みが一挙両得の効果を生むのかもしれません。
テレワーク化を進めるには、会計事務所側だけでなく、お客様側にも意識を変えてもらうことが必要です。それを書類のペーパーレス化、業務の電子化への良いきっかけとして取り組んでいただければ、事務所にとってもお客様にとっても、コストダウンや業務効率の一層の向上が見込める機会となります。