業界の事情
不動産仲介業(売買)は,不動産を売却する側と購入する側から依頼を受けて,募集活動から契約・引渡完了までのすべての業務を行う売買業と,宅地を造成して建物の建設を行い,それを区分けして販売して収益を得る分譲業がある。
分譲業は土地情報の入手から事前調査,事業や建築物の企画,各機関への許認可等,実作業に入る前だけでも数多くの段階を踏まなければならない。
不動産は顧客にとって大きな財産であることから,信用度や仕事の確実性等,業者に求められる水準は高くなる。
以前、元一級建築士の構造計算書偽造による耐震強度偽装問題で,不動産業界全体のイメージ低下も免れない状況もあったため,特に不動産仲介業の分譲業についてはより一層の信頼性が求められる。
経営改善のポイント
(1)マーケティング力
不動産取引に関するあらゆる専門知識はもちろんであるが,不動産価格の相場変動や地域情報に精通している必要があり,そのようなマーケティング能力の差が企業の収益の差になり,企画調査力は必須である。
(2)インターネットの活用
利用者に便利な環境を提供するべく,最近ではインターネットによる物件の検索や問い合わせ,予約のサービスを行う業者も増えており,需要の増加へと結び付く効果が大きいと見られている。
建物を購入しようとする人の多くは,まずインターネットで物件を検索し,ある程度絞り込んだ上で不動産業者を訪れる。
物件を大手の不動産サイトに登録するのにも,インターネットでオンライン登録する必要がある。
また,不動産会社間の情報交換サービスも,インターネットでの提供がメインとなっている。
(3)不動産コンサルティング力
業界に従事する者は,不動産取引に関するあらゆる専門知識不動産価格又は賃料の相場変動,現在流通している不動産の把握,その他の地域情報に精通している必要があり,さらに最も必要とされるのは,顧客が安心して決断できるようにアドバイスできる能力(コンサルテイング能力)である。
特に,販売担当者は,資金計画や住宅ローンの相談,物件に対する説明や購入に関する不安点や疑問点に答える等,多岐にわたる重要な役割を持つので,顧客のニーズを把握し適格に提案ができる能力が求められる。
(4)安心感のあるサービスの提供
利用者にとっては利用頻度の少ない業界であるだけに,業者を選ぶ上で実績や企業イメージといった要素は特に重視される傾向にある。
利用者からの信用を得るために,法律に則った正当な取引によって安心感のあるサービス提供に努めることが大切である。
(5)資金調達力
持に分譲業は大きな収益が得られる反面,さまざまなリスクも考えられるだけに,長期的な計画力や地価の変動等,不測の事態にも対処できる体制や資金調達力が必要である。
所有不動産が長期に販売が不可能となって,不良化している商品がないことや,商品の取得資金の半分を自己資金で調達できる能力があるか等がポイン卜である。
税務のポイント
(1)収益計上の時期
不動産会社等が販売の目的のために所有する土地,建物等は棚卸資産となり,棚卸資産の売買にかかる収益計上時期は,原則としてその引渡しがあった日とされている(法基通 2-1 -1)。
例外的に棚卸資援が土地又土地の上に存する権利であり,その引渡しの日がいつであるか明らかでない時は,代金のおおむね50%以上を収受した日か所有権移転登記の申請をした日のいずれか早い日とされている(法器通2-1 -2)。
(2)棚卸資産の取得価額
棚卸資産である土地,建物等の取得価額は,原則としてその資産の購入の代価と取得のため又は販売の用に供するために直接要した費用の合計額である(法令32①)。
ただし, 次に挙げる費用は,取得価額に算入しないことを選択できる(法基通5- 1-1の2)
① 不動産取得税の額
② 地価税の額
③ 固定資産税及び都市計画税の額
④ 特別土地保有税の額
⑤ 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用の額
⑥ 借入金の利子の額
(3)個別対応方式と一括比例配分方式
土地の取引は非課税取引であるため,不動産売買業で原則課税方式を選択した場合には課税売上割合95%未満となる場合が多い。
その場合には課税仕入税額を全額控除することが認められず,個別対応方式か一括比例配分方式によって算出した金額を控除することとなる(消法30②)。
消費税に関する選択のほとんどは事前選択となるが,個別対応方式か一括比例配分方式かの選択は申告書作成時に選択することができる事後選択である。
また, 選択時の留意点としては次の事項が挙げられる。
① 個別対応方式は,取引ごとに課税仕入れを課税売上対応か,非課税売上対応か,共通対応かに区分しなければならない(消基通11- 2 -18)。課税売上げに対応する課税仕入れが多く発生する場合には個別対応方式を選択した方が有利だが,日常事務処理が煩雑になる場合がある。
② 一括比例配分方式は個別対応方式に比べ事務処理が簡便ですむが,2年間継続適用となるため,翌課税期間における有利不利シミュレーションを行った上で選択する必要がある(消基通11- 2 -21)。非課売上げに対応する課税仕入れが多く発生する場合には,一括比例配分方式を選択した方が有利になる場合がある。
③ どちらの方式が有利かは,不動産売買業においても個々の条件によって異なる場合が多いため,必ず2年間通算の比較検討を行い選択する必要がある