資産課税関係では、どのような改正が行われましたか?

事業承継税制について、適用要件が大幅に緩和された10年間の特例措置が設けられました。

事業承継税制の新たな特例措置の創設等

非上場株式等に係る贈与税及び相続税の納税猶予制度(事業承継税制)について、10年間に限って

  1. 入口の要件の緩和
  2. 承継パターンの拡大
  3. 承継後の負担の軽減

等の大幅な改正を盛り込んだ新たな特例措置(以下「特例措置」)が創設されました。

なお、この制度は従来の措置(以下「一般措置」)との選択適用となります。

具体的な改正内容は次の通りです。

  1. 入口の要件の緩和
    ①一般措置では、納税猶予の対象となるのは先代経営者から贈与、遺贈又は相続により取得した非上場株式等のうち、議決権株式総数の3分の2まで、かつ、相続税の猶予割合は80% (贈与税は100%)とされていますが、特例措置では、ふ株式が対象となり、相続税の猶予割合も100%とされました。
    ②一般措置では、納税猶予を受けた後継者が会社を承継した後5年間は平均8割の雇用を維持しなければならないこととされています。特例措置では、雇用維持要件を満たさない場合でも猶予は継続されます。ただし、要件を満たせない理由を記載した一定の書類の提出が必要となります。経営状況の悪化等による場合には、認定経営新等支援機関からの助言・指導が必要です。
  2. 承継パターンの拡大
    一般措置では、納税猶予の適用が受けられるのは、原則として、1人の先代経営者から1人の後継者への事業承継とされています。
    特例措置では、これまでの原則的な事業承継に加えて
    ・父親と母親からといった「複数人からの事業承継」(改正により、一般措置を選択した場合でも適用対象となります。)
    ・父親から子Aと子Bへといった「複数人(最大3人)への事業承継」
    等の幅広いパターンの事業承継が特例適用の対象とされました。
  3. 承継後の負担の軽減
    一般措置では、納税猶予適用後に会社を譲渡・解散した場合には承継時の株価を基に計算して猶予された贈与税・相続税額の全額と利子税を納付しなければならないこととされています。特例措置では、経営環境の変化に対応して、会社を自主解散したり、親族以外の者に会社を譲渡(M&A)したりする際には、解散・譲渡時の株価を基に贈与税額等を再計算して、これまでの全額納付に比べて税負担が減少する仕組みが導入されました。
    また、特例措置の適用を受ける場合には、60歳以上の贈与者から、贈与者の子や孫でない20歳以上の後継者への贈与も相続時精算課税制度の適用対象となりました。

[適用関係]
平成30年1月1日から平成39年12月31日までの聞に贈与、相続は遺贈により取得する財産に係る贈税又は相続税について適用。ただし、これらの特例を受けるためには、特例承継計画を作成し、平成30年4月1日から平成35年3月31日までの聞に都道府県に提出する等の必要があります。特例承継計画は、山該会社の後継者や承継時までの経営見通し等が記載されたもので、認定経営革新等支援機関の助言・指導を受けて作成します。なお、平成35年3月31日までの贈与・相続については、贈与・相続後に計画を提出することも可能です。

一般社団法人等への財産移転した場合の相続税・贈与税の見直し

  1. 特定一般社団法人等への財産移転をした場合の相続税の課税
    同族関係者が理事の過半を占めている特定一般社団法人等については、その同族理事(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)が死亡した場合、同族理事(死亡した理事を含む)の数で等分した当該特定一般社団法人等の財産を、死亡した理事から遺贈により取得したとみなして、当該特定一般社団法人等に対して相続税が課税されることになりました。
    ※特定一般社団法人等とは一般社団法人又は一般財団法人(公益社団法人等、非営利型法人その他一定のものを除く)で、次のいずれかに該当するもの。
    ①相続開始直前において、同族理事の数が理事の総数の50%を超えていること
    ②相続開始前5年以内において、同族理事の数が理事の総数の50%を超える期間が合計して3年以上であること

[適用関係]
平成30年4月1日以後の一般社団法人等の理事の死亡に係る相続税について適用。ただし、同日前に設立された一般社団法人等については、平成33年4月1日以後の当該一般社団法人等の理事の死亡に係る相続税について適用する等の要件が設けられました。

一般社団法人等に対して贈与等があった場合の贈与税等の課税の見直し

一般社団法人等に対して贈与等があった場合の贈与税等の課税について、贈与税等の負担が不当に減少する結果とならないものとされる要件(役員等に占める親族等の割合が3分のl以下である旨の定款の定めがあること等)のうちいずれかを満たさない場合に課税されることとされ、規定が明確化されました。

[適用関係]
平成30年4月1日以後の贈与又は遺贈により取得する財産に係る贈税又は相続税に適用。

小規模宅地の特例の見直し

  1. 特定居住用宅地等(持ち家に居住していない者)の特例の対象範囲の見直し
    小規模宅地等の特例を利用した過度な節税を防止するために、特例の適用対象から、自己の配偶者等に加えて3親等内の親族やその親族と特別の関係がある法人が国内に所有する家屋に相続開始前3年以内に居住していた者、相続開始時に居住していた家屋を過去に所有していた者を除外することとされました。
  2. 貸付事業用宅地等の範囲の見直し
    貸付事業用宅地等についても小規模宅地等の特例を利用した過度な節税が見られることから、これに対応する税制上の措置として、以下のような改正が行われます。
    ①次に掲げる貸付けがされた生産緑地についても納税猶予が適用されます。
    イ.「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」に規定する認定事業計画に基づく貸付け
    ロ.「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」に規定する特定都市農地貸付けの用に供されるための貸付け
    ハ.「特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律」(以下「特定農地貸付法」という。)の規定により地公共団体又は農業協同組ムが行う特定農地貸付けの用に供されるための貸付け
    ニ.「特定農地貸付法」の規定により地方公共団体及び農業協同組合以外の者が行う特定農地貸付け(その者が所有する農地で行うものであって、一定の貸付協定を締結しているものに限る。)の用に供されるための貸付け
  3. 三大都市圏の特定市以外の地域内の生産緑地について、営農継続要件が終身(現行:20年)とされます。
  4. 特例農地等の範囲に、次に掲げる農地等が加えられます。
    イ.特定生産緑地である農地等
    ロ.三大都市圏の特定市の田園住居地域内の農地
    ハ.農作物の栽培が耕作に該当するものとみなされる農地
  5. 特定生産緑地の指定又は指定の期限の延長がされなかった生緑地については、現に適用を受けている納税猶予に限り、その猶予が継続されます。
  6. その他所要の措置が講じられます。
    ※贈与税の納税猶予についても上記4・5の措置が講じられます。

[適用関係]
上記①及び②の改正は、「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」の施行の日以後に相続又は遺贈により取得する農地等に係る相続税について適用。なお、同日前に相続又は遺贈により取得した農地等について相続税の納税猶予の適用を受けている者についても、上記①の適用ができることとされ、その場合には、上記②開始前3年以内に貸付けを開始した宅地等については、特例の適用を認めないこととされました。ただし、相続開始前3年を超えて、事業的規模で貸付けを行っていた者が相続開始前3年以内に貸付けを開始したものは除かれます。

被相続人の居住の用に供されていた宅地等の範囲の見直し

新たな介護保険施設として「介護医療院」が創設されたことに伴い、介護医療院に入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷地の用に供されていた宅地等について、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして特例の適用対象とすることとされました。

[適用関係]
平成30年4月1日以後の相続又は遺贈により取得する宅地等に係る相続税について適用。ただし、一部について、平成32年3月31日までに、平成30年3月31日においてその相続等があったものとした場合に、改正前の特定居住用宅地等の要件を満たしていた宅地等を相続等により取得する場合には、その宅地等は改正後の要件を満たしているものとされる等の経過措置が講じられます。また、一部の改正については平成30年3月31日までに貸付けを開始した宅地等は除かれます。

農地等に係る相続税・贈都市農地の有する多様な機能の発揮を通じて良好な都市環境の形成に資するように都市農地を計画的に保全・活用していくため、平成29年に生産緑地法の改正を含む「都市緑地法等の一部を改正する法律」が成立し、
・生産緑地地区の面積要件(500㎡以上)について市区町村が条例により300㎡以上に引下げ可能に(平成29年6月15日施行)
・生産緑地地区の都市計画決定後30年経過するものについて買い取り申出期日を10年先送りする特定生産緑地制度の創設(平成30年4月l日施行)

相続税申告書の添付書類の見直し

相続税の申告書の添付書類として提出できる書類の範囲に、戸籍謄本を複写したもの及び法定相続情報一覧図の写し(複写したものを含み、図形形式で記載されたもののうち実子又は養子の別が記載されたものに限る)が加えられました。

[適用関係]
平成30年4月1日以後に提出する相続税の申告書に適用。