特化型事務所の事情

会計事務所の中には、特定の分野に専門特化した、いわゆる特化型事務所という存在があります。そうした事務所では所員に求められるスキルも、一般的な事務所とは違ってくるようです。

今回は、特化型事務所ならではの独特の業務慣習や、そこで必要とされる様々なスキルなどに関する所員の方のお話をご紹介いたします。

資産税特化型税理士事務所

まずは、資産税務に特化した事務所に勤める40代の女性所員の方のお話です。「前の事務所で10年近く勤務し、確定申告の処理などにはそれなりの自信がありましたが、今の事務所は法人税申告などはほとんど扱わず相続や事業承継のみを取り扱っているため、求められるスキルも別世界のように変わりました。

資産税の仕事では、『どれだけお客様の事情を汲んで対応してあげられるか』ということがとても重要になります。これは単なる意識付けの話ではありません。資産税の案件は、一件一件資産の内容や範囲、家族の構成や意向などが異なる特化型事務所ならではの所員事情ため、いわゆる型にはめるようなやり方はできません。そのため、お客様の事情を斟酌するコミュニケーションスキルに加え、民法、会社法、不動産、保険などに関する知識も求められます。

また、最近では、相続税の改正によって、贈与税の非課税特例や評価額の低減に有利なタワーマンション節税などが、巷間盛んに取り沙汰されています。こうした相続対策がどのように説明されているかを把握するために、相続に関するセミナーなどにも積極的に参加するよう心がけています」とのこと。

一口に節税対策と言っても、資産の構成や関係者の意向などによって講じられる対策は大きく変わります。その引き出しの多さが、所員のスキルにも求められるようです。

「生命保険専門」の事務所

資産税務の中でも、さらに特定の分野に特化した事務所も存在します。そうした事務所の特性を、50代の男性所員の方がご紹介くださいました。「うちの事務所は、生命保険を活用した財務戦略や相続対策を専門にしています。生命保険の保険料や保険金の取り扱いについては、税法に加えて様々な通達によって細かく定められているため、そうした規程に関する知識が不可欠なのはもちろんですが、数十年単位での長期的な視点、が特に重要です。

節税に活用するにしろ、もしもの時のための備えにするにしろ、保険は数十年後を見越した長期的なプランで契約するものがほとんどです。ですので、契約書を取り交わしたら終わりではなく、その後もプラン通りに節税できているか、お客様に損が生じていないか、管理し続けることが必要です。

例えば、解約した時に戻ってくる返戻金は、ある時期までは額が上がりますが、その後は逆に下がっていきます。そのピークは20年後になることもあります。解約を視野に保険プランを立てていた場合、ピークを逃すことのない対応が必要になる訳です。そのため、うちの事務所では、必ず定期的に顧問先の契約内容を検証すると共に、保険商品の動向などをつぶさにチェックし、今後のプランについて検討を行っています」とのこと。

細かく複雑な保険条項を読み解きながら、情勢の変化に合わせてアジャストさせる。確かに一般の会計事務所とは異なるスキルが必要になりますね。

医療業特化型税理士事務所

医療業経営は、法改正がタイレク卜に影響します。

医療業に特化した事務所では、税法以上に医療法や健康保険法の改正に敏感になるそうです。どういう背景が.あるのでしょうか。医療法人に特化した事務所にお勤めの40代の男性所員の方にご説明いただきました。

「医療法人の診療報酬は、公定価格で定められています。一般企業のように、需要と供給によって代価や報酬を上げ下げすることはできません。

さらに、医療行政は国の方針次第で大きく変わります。最近も、社会保障費の削減のために全国の病院の病床数を減らす方針が発表されました。医療法人の経営をサポートする私共のような事務所としては、こうした医療行政の変化や診療報酬の改定などに応じて、その都度経営アドバイスも改めていかなければなりません。

高齢化社会が進む中、医療行政は今後も変更を重ねていくものと思われます。そのため、新しい動きを見落とすことがないように、医療関係者のためのセミナーへも足しげに通います。新たな制度改正がありそうだという情報があれば、すぐ顧問先の経営計画にどういう影響があるかをシミュレーションし、保険外診療にシフトするとか、医療行為以外を提供するケアサービス法人を傘下に設立するといった可能性などについて、詳細なレポー卜を作成し顧問先に提案します。そして、その上に院長自身の節税や相続プランも組み合わせていく訳です。それらの細かいフォローアップが、お医者様から『さすが医療業に特化しているだけあって頼りになる』という信頼につながっていると思います」と語ってくださいました。

経営計画のプランニングには、医療技術や設備、指定医療機関の要件などに関する知見なども必要になることと思われます。こうしたニーズに深く対応できるところが、専門特化した事務所の強みなのでしょう。

宗教法人特化型税理士事務所

続いては、宗教法人に特化した事務所の事例を、20代の女性職員の方に伺いました。

私の事務所では、入所するとまず顧問先の宗派や歴史、開祖の知識などについて叩きこまれます。

一口に仏教と言っても、密教や鎌倉仏教、あるいは新興の宗派など、宗派によって教義や経典、法要の際の作法なども大きく異なります。それらの違い、例えば開祖の名前を間違えることなどは、『顧客を冒涜するもの』と所長に厳しく戒められています。

宗派についてきちんと学ぶことで、法要や行事の意義などが初めて理解でき、それに合わせた経営や財務に関する提案なども、適切に行えるようになります。

最初は覚えることが多くて大変でしたが、勉強するにつれ、法要などの宗教行事が日本の文化に深くつながっていることを実感するようになりました。プライベートでも、二十四節気といった季節の移り変わりを気にするようになり、人生が.少し豊かになったような気がします」

顧問先が属する業界の事情に精通する。それは一般の会計事務所でも求められることですが 特化型事務所では、その分野の専門家とわたりあう深い知識によって専門的なニーズに応えています。

そこに勤務する所員の方々も、自分の知識を高める貴重な環境と捉えられているようでした。