「VR (仮想現実)」「AR (拡張現実)」

一般にはあまり知られていませんが、IT業界ではエンターテイメント分野だけでなく、医療や観光、小売などの分野でも、VR • ARを用いる取リ組みが始まっています。

今回は、VR • AR技術の概要と将来的な可能性についてご紹介いたします。

VRとARは、どちらも人の認知(認識)に関わる技術で、VRは「VirtualReality (バーチャルリアリティ:仮想現実)」、ARは「Augmented Reality(オーグメンテッドリアリティ:拡張現実)」を意味します。語感が何となく似ていることもあって区別しにくいのですが、それぞれ異なる技術です。

VRは、高品質の360度動画や360度動画を現実の人の動きに対応させて動かすことにより、現実にはない空間を疑似体験させる技術。ARは、画像処理抜術に加えて位置情報技術なども駆使し、その人が今いる現実空間の一部に情報を加える技術です。つまり、仕組みの上では、VRが現実空間と基本的に切り離されて展開されるのに対し、ARは現実空間の上に展開される点が根本的に違うところです。

ユーザーの見え方や感じ方においても、VRとARには違いがあります。

VRのディスプレイは、頭部に装着するHMO(ヘッドマウントディスプレイ)などが主流で、HMOでは上下左右360度の視野でVR空間を認知するため、あたかもその世界に入り込んでいるようなリアリティを得られます。一方、ARはスマートフォンやタブレットなどのディスプレイを通して見るケースがほとんどで、現実空間の中の限られた一部としてAR空間を認知します。しかも、ディスプレイから目を外せばすぐに現実空間を見ることになるため、仮想空間の中に入り込むような感覚はありません。

このような違いのあるVRとARですが、実際にはどのように実用化されているのでしょうか?

それでは、それぞれの特長をわかりやすい活用例で見ていきましょう。VRは、今そこにはない空間や状況を、迫真のリアリティをもって疑似体験できることが最大の特長です。これを最もよく活かしているのが、エンターテインメントの分野。現実にはあり得ない空間をCGで描いたゲームやムービーはもちろん、スポーツやコンサー卜などの実写映像もユーザーはその場に臨場しているかのように楽しむことができるのが、大きな価値となっています。また、不動産業の分野では、物件の内覧に活用する動きが見られます。図面やパンフレットからでは分かりにくい居住性や生活動線、各窓からの景色などを、現地に赴くことなく仮想空間で体験できるのは、顧客にとってメリッ卜となっています。

こうした用途の中で、近年特に注目されているのが医療分野への活用です。手術などの医療行為は、人の生命に関わるものでミスは許されません。そこで、臓器や体内を360度全方位でとらえることのできる画像で手術前に十分な検討を行ったり、手術中に患者個別の360度画像データを確認したりするVRによる手術支援システムが、医工連携で開発されています。こうしたシステムが一般的になれば、手術の確実性などもこれまで以上に高まることでしょう。

一方、ARの特長は、カメラを通して現実空間にプラスαの情報を付加できることにあります。ユーザーが、スマートフォンやタブレットなどで手軽に利用できることも大きなメリッ卜です。社会現象にもなったモンスターゲーム「ポケモンGO」はこの代表的な事例ですが、同様の使い方として観光ガイドやタウンガイドなどがあります。

例えば、宮城県多賀城市では、市内の歴史スポットをナビゲーションするアプリを制作。アプリを起動させて街を回ると史跡付近で自動的に解説を表示したり、画面に史跡の復元CGを重ねて出現させるなど、ゲーム感覚で楽しめるコンテンツとなっています。この他、小売分野では、お目当てのソファをリビングに置いたらどうなるか、欲しい冷蔵庫はキッチンに収まるか、といったことをシミュレーションできるアプリが、インテリアメーカーや家電メーカーなどから提供されています。

教育・研修ユースでは、航空機の整備などの業務において、メガネ型ディスプレイに表示したマニュアルを見ながら作業を行うといったことも行われています。

VRでもARでもない「MR」とは?

マイクロソフト社がVRやARに次ぐ新たな技術概念として提唱しているのが、MRです。MRは、現実空聞に3DCGなどによるVRのオブジェクトを重ね、ARのように空間を拡張します。また、VRのオブジェクトは、実際に手で触れるような感覚を得られます。具体的な用途としては、現実空聞に置いた製品にホログラムを重ねてデザインの調整をするなど、インダストリアル分野での活用が期待されています。

ところで、VRサービスを提供するためには、大きく分けて「360度カメラ」「ネット配信環境」「視聴端末」の3つの構成要素があります。これらはそれぞれに大きな進展が見られています。まず、360度カメラは各メーカーからリリースが相次ぎ、比較的安価な機種から業務用の超高性能機種までラインナップが整ってきています。ネット配信環境も、大手動画サイ卜やSNSが360度カメラの画像に対応するようになりました。視聴端末も、HMOやメガネ型ディスプレイ、3Dディスプレイなど、360度カメラと同様、ラインナップの幅が広がってきています。

このように、一般消費者がVRサービスを受けやすい環境が整ったと考えられます。

ARについては、環境が整うのはもう少し先と言われていましたが、ポケモンGOの爆発的ヒット、そして、中国のメーカーからARアプリ標準搭載のスマートフォンが発売されたことにより、ARもグッと近づいたと言えそうです。革新がもたらされる可能性があります。

VR ・ARはまだまだこれからの技術ですが、ふと気がつけば私たちの日常生活にかつて、電話が固定からモバイルへと溶け込み進化したことで、私たちの生活は大きく変化しました。VRやARも、それに匹敵する変化をもたらすだろうと考えている専門家は少なくありません。

例えば、VRがエンターテインメントの質を飛躍的に高めることで、余暇の過ごし方が大きく変わるかもしれません。

あるいは、ARの拡張現実空間を様々な場所に展開することで、まったく新しい広告手法が生まれるかもしれません。医療や介護の現場、モノづくりの現場にもリオデジャネイロオリンピック閉会式で披露されたAR技術を用いた日本のパフォーマンスは、世界中に驚きと興奮を与えました。2020年東京オリンピックの頃には、VR • ARの技術はさらに進化を遂げていることでしょう。事務所の前を歩く歩行者のスマートフォンに、ポッと事務所の広告が浮かぶ、そんなこともそう遠くないのかもしれません。