平成30年度税制改正大綱によれば、「貸付事業用宅地等のの範囲から、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等」を除外する」とされています。

この改正は、相続した宅地を貸付事業用宅地として特例の適用を受けるにあたり、改正前と比べて大きな制限となるのは明らかです。今後、相続開始直前に収益不動産を購入して節税するいった対策に一定の歯止めをかけることになりそうです。

特に、「相続前3年超」「事業規模」といった縛りが導入される点については注意が必要です。この内、小規模宅地等の特例において事業用宅地等に関して不動産貸付につき「事業規模」判定基準が導入されるのは、昭和63年度税制改正以来となります。その後の平成6年度税制改正で特例が抜本的に改正された際に、いったん棚上げされていました。

「事業規模」の概念については、大綱でははっきりとしめされてはいないが、昭和63年度改正と同様に所得税の不動産所得における事業規模の判定基準を借用するものだとすれば、いわゆる5等10室という外形的基準を事業規模判定に用いることが考えられる。

現行の所得税基本通達では「社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべき」ものしているが、特に反証がない限り「貸間、アパ-ト等については、貸与することができる独立した客数がおおむね10以上であること、独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること」の基準を満たせば「事業規模」と判定される。この他、土地の貸付がある場合には、1室の貸付けに相当する土地の貸付件数を「おおむね5とするという取扱いもある」

とはいえ、個人が事業規模で不動産貸付けを行っているかどうかを巡り、平成の当初、税務署と相続人が争う税務トラブ部が多発し、トシン立地のビル事業で貸室3室をもって事業規模と認めた裁判の判例が出るなど、現場が混乱したこともある。

小規模宅地等の特例は、被相続人の居住していた宅地の他、アパ-ト等貸付け事業、自営業のための宅地について、相続税の計算上、課税価格に参入する課税価格を一定面積まで5割~8割減額する税制上の特例です。その政策目的は、居住や事業を継続する相続人の生活基盤となっている財産については処分しないで済むように守っていることです。

相続税制は当然に個人の財産を処分して納税する辞退も視野に入れた制度ですが、この税制で生活にこまる人が出てしまっては、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利等を規定している憲法の趣旨に反するということです。貸付事業用宅地等に限定すれば、相続人が生活基盤である貸付事業を「継ぐ」ことが、特例により「守られるべき」ものになるということです。

国税庁では、以前から相続開始直前に高額な貸付け不動産を購入して、特例を適用することで貸付不動産の敷地の課税価格を減額し、相続税の申告後に貸付不動産を売却するといった単に特例の「減額効果」だけを求めるようねケ-スに目をつけていた。

国税庁が財務省に上申してる「税制改正意見」の平成28年度版では、独自の節税封じ案をだしていた。その案とは、相続税の申告後3年はその財産を保有することを適用要件に加えるというものだったが、実現はしなかった。

国の会計のお目付け約である「会計検査員」が先ごろ公表した「租税特別措置の適用状況状況等等について」によると、相続した土地等につき申告後3年を経過するまでに譲渡し、譲渡収入金額が高額な人を抽出検査したところ、相続人が相続税の申告期限の翌日から1年以内に貸付事業用宅地等を譲渡していたケ-スが110件あったと指摘しています。特例の政策目的にかなっているかどうかの分析等が政策立案の段階で不十分ではないかと疑問視する報告書をまとめている。

今回の改正は、こうした問題意識を背景に行われているもとと推測できそうだ。

大綱によれば、この改正の適用については「平成30年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税については適用する。ただし、上記の改正は、同日前から貸付事業の用に供されている宅地等については適用しない」とされている。とはいえ、節税策の為に不動産を購入したはいいが、不動産投資をめぐる経済変動で資産規模を減少させることとなれば、本末転倒であることでしょう。