現行の消費税制度
総務省統計のデータ(2015年度分)によると、消費税の税収は、17兆4,263億円であり、国税収入(59兆9,694億円)の29.1%を占める。これと比べ所得税の占める割合が29.7%、法人税が18.1%であることから、消費税はこれらの租税に並ぶ基幹税であることは明らかであり、また、今後においても安定した税収が見込める税目であると考えられている。そこで、今後の日本においては、少子高齢化の進展とともに国民の将来への不安が高まる中、厳しい財政事情や増大する社会保障支出に対処するための財源として機能させるために、税率の引き上げを中心とする消費税の見直しが検討されてきている。
他方、税率の引き上げについては、景気に対するマイナス影響が懸念されている上に、現行消費税制度の持つ益税問題、消費税固有の逆進性の問題から反対論が多数あります。
消費税制度導入経緯
平成31年10月に税制改正により税率を引き上げた際には、消費課税の逆進的効果は現状よりも更に顕著になるため、これに対して消費課税制度の枠内で完結的に対応するのか、一定の所得者層に所得税の払い戻しや基礎控除の引き上げを行う対処をすることで、他税目との調整を図るのか、あるいは社会保障等と連携することにより、財政全体で対応を図るべきか等の点について盛んに論議されているところです。
逆進性効果・・・消費税率が上がると低所得者ほど収入に対する食料品などの生活必需品購入費の割合が高くなり、高所得者よりも税負担率が大きくなるということ。
消費税は、消費に広く負担を求める税であり、あらゆる取引段階にわたり課されます。それゆえに税制上、経済活動においてできるだけ中立であることが求められると共に、国民に納得の得られる公平で整合性の取れた租税である必要があります。
消費税の中小事業者に対する特例措置と諸問題
消費税は、平成元年4月より導入された付加価値に対して課する税であるが、我が国においてはこのような形態の税制は初めてであった為、導入時に中小事業者に対する配慮から、「事業者免税点制度」「簡易課税制度」「限界控除制度」等の制度を設けた。そして、「事業者免税点制度」及び「簡易課税制度」は、改正の都度、益税問題に対する厳しい批判により縮小されてきてはいるものも、現在においても存続している。
このうち、簡易課税制度は、中小事業者の課税事業者に一律に本則課税による仕入控除税額の算定を求めることは困難であることから、中小事業者の事務処理能力を勘案して設けられた制度です。これは、売上に係る消費税額を基礎として計算することで、簡単に仕入に係る消費税額を計算することができ、煩雑な消費税の計算を滞り無く行うことを可能にします。しかし、当該制度は、本則課税と簡易課税の各計算方式によって算定される仕入税額控除額に、不合理な乖離が生じることがあることから、いわゆる益税問題が発生し、納税者と課税庁側で紛争が生じることも少なくなく、その制度の存在自体が批判の的になることも多いです。
現在の簡易課税制度は、現行税率8%の単一税率を前提としている。しかし、税率の引き上げを中心とする消費税の見直しは、今回の改正におけるような複数税率の導入等、その仕組みそのものを大きく見直すことになり、結果、消費税制度全体の複雑化を招くことが考えられ、中小事業者への配慮についても多角的な視点から再検討しなければならないことになります。
一般消費税の導入以前、我が国においては、課税の公平負担を重視して、生活必需品等を課税対象から除き、その課税対象となる物品の奢侈性の高さに応じて累進的に課税する個別消費税が採用され、物品の種類によって異なる税率が適用されてきました。
しかし、所得水準の上昇、国民の価値観の多様化、経済のソフト化・サービス化という社会・経済構造の変化の中で、税負担について、垂直的公平のみならず、水平的公平を考える方向に国民の関心が向く中で、個別消費税制度に対する批判が徐々に強くなり、一般消費税の採用を主張する意見が強くなる傾向となりました。
垂直的公平・・・能力の高い者ほど税の負担能力も高く,より納税額が大きいのが公平であるという考え方であり,所得税の累進性の根拠ともなっている。
水平的公平・・・同額の課税対象には同額の税額が徴収されるのが公平とする考え方、消費税の根拠となっている。
さらには日本の高度経済成長が終わるとともに、税収が自然に増加するという期待が減少して行く中で、福祉や公共事業の負担により、地方財政が悪化するとともに、国家の財政にも不安が拡大し、財源確保の必要性も生じ、一般消費税の導入が本格的に検討されるに至りました。
個別消費税への主な批判としては、個別消費税は税収ポテンシャルが小さいということ、社会構造の変化によって個別消費税の課税対象となる物品の選定が困難となり、物品とサービスとの間の負担の不均衡が生じ、税の中立性を欠くこと、また、課税物品の意義と範囲について解釈上の相違が生じやすく、そのため税制度の運用が複雑になり、簡素な税制が成立しないというものでありました。
このような個別消費税の欠陥から、我が国においてもすべての消費に対して「広く薄く課税」する一般消費税の体系が望ましいとの意見が強くなり、その流れを受け、それまでの日本の税制においては直接税である所得税に重点をおいていたが、高齢化社会を迎えるにあたっては、世代間の税負担の平準化、生涯を通じた税負担の平準化、安定的な税収を期待出来る税制の必要性から、直間比率をヨーロッパ主要国並にするべきだと考えられるようになり、消費税の創設趣旨については、税制改正法10条1項に「現行の個別間接税制度が直面している諸問題を根本的に解決し、税体系全体を通ずる税負担の公平を図るとともに、国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定化に資するため、消費に広く薄く負担を求める消費税を創設する」というように規定している。ただし、その一般消費税の導入は、反対も強く、一時はその成立すらも危ぶまれたが、最終的には平成元年4月より実施されることとなった。一般消費税の導入とともに、従来の個別消費税の多くは廃止され、一般消費税に吸収されることとなりました。
日本における消費税制度の特色としては、課税ベースが広いこと、税率が低くかつ単一税率であること、課税期間が長いことが挙げられる。これらの特色によって日本における消費税制度は、簡素性と消費中立性というメリットを手にした反面で、「逆進性」という問題を抱えることとなりました。
そしてまた、消費税制度が導入される際に、中小零細事業者の税の転嫁能力や納税事務に対する負担能力を考慮して、消費税制度の導入を円滑にし、さらに制度を定着化させる為に、一定規模以下の中小零細事業者についての納税義務を免除する特例制度が設けられたこともその特色のひとつです。これらの特例制度は一定の合理性を有し、我が国における消費税制度の導入に際して、一定の寄与をしたとされるが、特例制度によって税負担の公平さが保たれなくなってしまうという状況が生じています。
中小事業者に対する特例措置は、消費税制度を円滑に導入し、さらに制度を定着化させる為に定められたものである。中小事業者に対する特例措置としては、事業者免税点制度、限界控除制度、簡易課税制度が用意されたが、その是非については消費税制度の導入当初より議論が多く、現在に至るまでに幾度にもわたり改正されてきた。下図はその改正の経緯をまとめたものであるが、本章ではそれぞれの制度の変遷についてより詳細に検討していく。
事業者免税点制度
事業者免税点制度は、小規模な事業者の転嫁能力や納税義務負担への配慮から、一定の事業規模以下の事業者に対して、国内取引の納税義務を免除するというものです。
消費税制度創設当初は、課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下の事業者については、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務が免除されるとされ、その適用上限は3,000万円と定められました。
その後の平成6年の税制改革(平成9年施行)では、消費税制度の公平性及び信頼性を確保するための、中小事業者に対する特例措置の見直しの一貫として、資本金1,000万円以上の新設法人について、設立当初の2年は、事業者免税点制度は適用しないこととされました。
さらに平成15年の消費税法改正では、それまでの適用上限を3,000万円とする制度では、特例制度であるにも関わらず6割強の事業者が免税事業者となってしまうという実態を踏まえ、その割合を事業者の半数以下となる水準まで引き下げるべく、適用上限額が1,000万円まで引き下げられました。
このように事業者免税点制度が縮小されてきたのには、免税事業者に対して消費者が支払った消費税相当額が国庫に入っていないのではないかという益税の問題が、消費税に対する国民の不信を生じさせてきたという背景があります。
しかし、この問題については、2002年に中小企業庁の発表した「中小企業における消費税実態調査」によれば、免税事業者となるような小規模な事業者は、市場における価格決定力の欠如などの理由から、仕入税額を適切に売上価格に転嫁出来ておらず、実質的な益税の額は僅少であるという見方も存します。
限界控除制度の廃止
限界控除制度は、その課税期間における課税売上高が6,000万円未満である小規模事業者について、課税の影響を緩和するため、本来納付すべき税額を軽減するという制度である。この制度は、消費税導入当初に、中小事業者の事務負担に考慮しつつ、消費税導入当時の事業者免税点制度の適用上限である3,000万円を境とした課税負担の急激なギャップを軽減するために導入されました。
限界控除制度については、その目的は実質的に中小零細事業者の納税事務コストの補填という性格のものであると考えられ、消費税導入当初には、その円滑な実施と定着に寄与したと思われるが、本来の納税額が明らかとなっているにも関わらず、消費者が実質的に負担した消費税相当額の一部を事業者の手もとに残すという仕組みを制度上認めることは、公平性の観点や間接税という仕組みから問題があるという批判がありました。
その一方で、消費税導入後も、様々な事務コストが継続的に発生しているし、新規に納税義務者となった事業者にとっては新たな事務負担が生ずることなどから、制度の存続を認める意見もあった。しかし、全体としては限界控除制度については、消費税制度の導入後に継続して発生するコストは小さくなるとの考えから、縮減されるべきであると考えられました。
そのような状況の中で、平成3年の消費税法改正の際には適用限度額が5,000万円に引き下げられ、さらには平成6年の税制改革(平成9年施行)では、限界控除制度自体が廃止されました。
簡易課税制度
簡易課税制度は、消費税導入に伴って発生する中小事業者の事務負担に配慮して設けられた制度で、一定の課税売上高以下の事業者が、選択によって課税売上高を基準として仕入控除税額を計算することが出来るという制度です。この簡易課税制度については多くの問題があり、存続すべきでないとの意見も多数ありますが、平成31年10月施行の消費税法においては制度廃止ではなく今後も継続する方針です。