安定したビジネスモデルなら、月ごとの売上げも経費も、大きな変動はなく推移し、経営計画通りの税額を納めることとなるでしょう。 しかし、季節変動により大きく売上が変動する業種や景気の影響をダイレクトに受ける飲食業や建設業、また、受注制作を主な売上の柱としているような業種ですと、急激に売上が伸びることは良いことなのですが、想定外の納税に頭を悩ませる経営者も少なくありません。その他、不動産の売却で多額の利益がでた場合においても、多額の成功報酬が発生するよなケ-スあります。
利益が出ることは喜ばしいことですが、決算期末まであまり期間がないとすると、 その利益に対して法人税がダイレクトにかかってしまいます。 それまでに赤字が続いていれば青色欠損金と相殺することにより法人税等の負担についても、然程、危惧するまでもないでしょう。 黒字と赤字が交互に推移してきたような会社や新設法人で保守的に役員報酬を設定していた場合には、突然出た利益に法人税等がかかりますので、せっかく売上が伸びたにもかかわらず、税金等の負担で売上が伸びた程には会社に資金が残らないこともあります。
売上請求書を決算月の翌月に回すいう手段で、翌期に売上を計上するという方もいらっしゃいますが、これは問題です。納品した時点(売上が確定)で会計上の売上を計上しないことは悪質な脱税行為と判断されます。税務調査の際には、売上の計上については、真っ先に厳しくチェックされます。また、経費についても同様で決算日時点で事業の用に供していない資産や決算日後に費用として計上すべきものについて先行して費用計上しているものについては、厳しいペナルティが待っています。
法人の決算期変更
決算期を変更して、新年度の初月に多額の利益が計上されると、 その利益について有効な使い道についてじっくり考えることができます。一番の有効な使途の代表格は、役員報酬でしょう。 現行法上、役員報酬の改定は利益操作の温床となりがちであるとの観点から、定期同額給与という縛りでその金額の変更は、原則、決算期末から3ヶ月以内についてのみ認められます。 決算期変更をすることにより、新事業年度から新たに役員報酬の増額改訂ができますので、会社の実情に見合った役員報酬を再設定できます。
一方、金融機関や行政機関へ提出する決算書を赤字にしたくない場合等、 決算期を変更することで。結果として決算上の数字を黒字にすることもできます。 特に決算期末近くに多額の経費がかかる場合や急激な業績悪化などに対しては、 期末まで待って赤字にするより、決算期を早めることで、黒字決算にできるようなら、 検討に値するでしょう。しかし、金融機関についても決算期変更により表面的数字を取り繕ったとしてもその実質がただ単に決算書上の数字を良くするものだけを目的としているのであるならば、逆に心証を悪くしかねませんので、過去の終わったことよりも、将来的な経営成績・財政状態を右上がりにする計画を立てることに力を注ぐ方が良いです。
また、消費税還付が見込まれる場合に、 課税事業者の選択とともに決算期変更することによりメリットを受けることも可能です (消費税については別途課税期間の短縮という手法もあります)が、消費税の還付のみを目的とした決算期変更は事務コストの増加を招くのみで建設的ではありませんのでお勧めはしません。
変更の期限
法人は決算日を自由に設定することができます。決算日にいつするかは会社の判断ですので、適法な手続きさえ踏めば自由に、変更することができます。
【変更期限】
1.臨時株主総会の決議 ⇒ 変更後の決算年度末まで
2.定款変更手続 ⇒ 臨時株主総会決議後、速やかに変更
3.税務署等に対する「異動届出書」の提出 ⇒ 臨時株主総会決議後、速やかに提出⇒具体的には、変更後の事業年度の確定申告書の提出期限までに変更後の定款を添付して提出
必要手続
1.株主総会決議(特別決議にて2/3以上の株主同意が必要⇒議事録作成)
2.定款変更手続 (登記手続は不要です)
3.税務署・県税事務所/市町村役場(都税事務所)への異動届出書の提出手続(添付書類として変更後の定款が必要です)
留意点
- 決算期変更は回数の制限はなし
- 変更した年度は半端決算(12ヶ月未満の年度)となるため、申告手続が増え事務コスト増となります。
- 決算期の変更により事業年度が1年未満となるため、前事業年度との業績の比較分析がしづらくなる。
- 適法な手続きに従って決算期変更を行わず、決算期末を過ぎた月になってから決算期を変更をした場合、「租税回避行為」 と認定されるリスクがあります。
- 同族会社の場合、適法な手続きに従って決算期変更を行わず、 「租税回避行為」として当局に判断された場合、「同族会社の行為の否認」という規定(決算期変更が認められない)の認定を受けるリスクがあります。
中古資産を購入して減価償却費で利益を圧縮
中古資産を取得した場合、法定耐用年数より短い期間で償却することが可能です。
原則は、使用可能期間として見積もられる年数によって減価償却として費用化しますが、使用可能期間の見積もりが困難な場合、簡便法によることが可能で、実務上は簡便法により見積もられた耐用年数にて費用化するケ-スが多いです。
中古資産の耐用年数
法定耐用年数の全部を経過・・・ 法定耐用年数×20%
法定耐用年数の一部を経過・・・(法定耐用年数-経過年数)+(経過年数×20%)
※1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨て、2年未満の場合は2年とします。
※法定耐用年数表(国税庁HPリンク)
【具体例】
●中古車を購入⇒普通自動車の法定耐用年数は6年
1年経過:5年 =(6年-1年)+(1年×20%)
2年経過:4年 =(6年-2年)+(2年×20%)
3年経過:3年 =(6年-3年)+(3年×20%)
4年経過:2年 =(6年-4年)+(4年×20%)
5年経過:2年 =(6年-5年)+(5年×20%)
※4年を経過すれば、耐用年数は一律2年になります。
定率法の償却率は以下の通りとなり、2年で定率法の資産を減価償却する場合には初年度100%償却となります。ただし、実際に事業に供した月から月数按分にて費用化しますので、決算月に購入・使用となりますと購入額の1/12相当額についてのみ減価償却費として費用計上できることに留意が必要です。
2年・・・ 100%
3年・・・83.33%
4年 ・・・62.50%
5年 ・・・50.00%
6年 ・・・41.70%
30万円未満の資産の購入
固定資産
固定資産として処理する場合、減価償却という形で税法に定められた計算方法によって費用として計上していくため、取得価額を全額費用として計上することはできません(新品の場合)。
また、減価償却費は事業の用に供された月からの月数按分計算となりますので、決算月に使用開始した場合は、1年分の1/12だけが費用となります。
一括償却資産
一括償却資産とは、20万円未満の資産で、3年で均等に減価償却します。固定資産と異なり、どの月に購入しても減価償却費は月数按分せず、1/3の金額を費用計上できます。
青色申告法人は30万円未満の資産は取得期に取得価額全額を費用計上できますので、一括償却資産という取扱いは事務処理が煩雑になるため、あえて選択しない場合がありますが、一括償却資産として取り扱うことで償却資産税(土地・家屋・無形固定資産等以外の固定資産税)の対象外とすることで償却資産税を減額することができるメリットがありますので、設備投資額の大きい製造業等については一括償却資産の規定をフル活用することが多いです。
少額減価償却資産
30万円未満又は1年未満の使い切りの資産。取得価額を全額費用処理可能です。ただし、主に資本金1億円以下の中小法人と個人事業主の中小事業者が対象(上限金額は1年あたり300万円未満)。
事務所家賃を年払へ変更
決算期末までに翌期の家賃を1年分前払で支払った場合には、毎期継続して支払った期に費用計上することを要件として、当期の費用として処理することが認められます。この場合には、当期の決算にて、翌期分の費用を前倒しで計上することができますので、税金を繰り延べる効果があります。つまり、当該処理を導入した期において税負担が軽減されます。月払いから年払いに変更し変更の契約書を取り交わす事務処理も忘れずに処理をしましょう。
ただし、税金の支出を先延ばしにすることばかりに重点を置きすぎますと、手許のキャッシュが減りますので資金繰りに不安がある場合には避けるべきです。また、事務所を引っ越す予定があったり、大家の倒産リスクについても留意する必要があります。
法人税法基本通達 2-2-14(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2-8「七」により追加、昭61年直法2-12「二」により改正)
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
消費税の費用計上時期を発生ベ-スに変更
消費税を税込経理にて処理をしている場合は、原則、申告書を提出する日の事業年度に損金算入がされます。つまり、消費税の発生した翌期の実際に支払が生じた期に費用計上することになります。
ただし、申告書に記載すべき消費税等を費用計上して未払として決算書上、経理した場合は、未払計上した事業年度に損金とされます。
よって、消費税の未払経理処理を導入した期においては、消費税を計上した金額に対応する法人税等を減額する効果があります。
決算賞与を支給
会社の業績が良かったことを従業員に還元し、利益の額を圧縮することで節税しかつ、従業員のモチベ-ションをアップさせることができます。ただし、会社の資金繰りについて充分に検討したうえで会社にどのくらいお金を残すべきかについて検討したうえで支給額を決定しなければなりません。決算賞与は、決算日までに支給できない場合、下記の支給要件をみたすことにより未払計上することで費用(損金)処理することができます。
【決算日にて決算賞与を未払計上のする場合の要件】
- 従業員全員に賞与支給額と支給日を通知(書面が望ましい)
- 決算終了後、1ヶ月以内に支給
- 経理上、費用として決算処理(税務申告書上の調整のみでは費用処理が認められません)
経営セ-フティ共済(倒産防止掛金)に加入
加入要件を満たした場合、翌期の1年分前納で20万円×12ケ月=240万円を費用計上可能(累計額800万円限度)。40ケ月経過後は支払額100%の返戻率(収益計上)。
小規模企業共済に加入
法人加入は出来ませんが、役員の退職金として支払額全額が所得控除の対象。
進行期の役員報酬額の変更は原則できませんが、次期の役員報酬額の増額と合わせて、小規模企業共済に加入し、増加税額を抑えることが有効です。