業界の事情

美容業は,美容師としての資絡を取得すれば,営業施設を設けて開設を届け出ることによって開業が可能であり,開業に当たっての店舗建物・機械設備等の投下資本も比較的少なくてすむ等,参入障壁が低いこと等から,必然的に過当競争を招きやすい体質を持っている。

美容業は個人事業が約8割を占め,15万事業所程となっている。

個人事業所の比率が高いことから,美容スタッフを店主や家族従業員等の身内関係で構成して家族経営を行っている事業所も多い。

美容業は, 比較的開業が容易であることから,競合店である施設数が増加しやすい上, 既存の店と新規参入店との経営パターンが基本的には同じなので,狭い同一の土俵の中でひしめきあう過当競争を繰り広げる傾向にある。

経営改善のポイント

集客力のアップ

① ポイントカードの導入

支払代金がポイント加算される「ポイントカード」をサービスとして発行している場合もあるが,もらって得するプレミアムが必要となる。「得した気分」になるように努力をすることが重要である。

このように, 貯める喜びと使う楽しみを顧客に付与し,得した気分になってもらう努力をすることで,リピーターが増加する。

② 独自イベントの展開

イベントやキャンペーンも「独自性」が必要である。

使用する化粧品メーカーが用意した画一的なキャンペーンよりもその地域・そのサロンに合ったキャンペーンを行う。

できれば, 顧客と一緒に楽しめるような地域密着型イベントは効果が表れる。

技術力の向上

技術の上手な店は,言い換えれば顧客のニ-ズをつかんでいる店舗ともいえる。

顧客がいつも多い店舗は,必然的に髪を切る数,巻く数,染める数が多く,技術が常に向上している。

顧客が少ない店は,モデルで練習することにより,積極的に技術を向上することが大切である。

人材の確保・育成

美容業界は典型的な労働集約型産業であり,従業員である美容師の個人的技能によって営業成績が大きく左右される。

したがって,従業員教育を含めた質の向上策とともに,育成した従業員の定着策が重要課題となる。

それには,人それぞれの能力を生かす環境とシステムがあれば,人手は人財となる。

誰かが退職したから補充するのではなく,美容院の経営計画に沿った人材育成が重要である。

サービスの差別化

① 出張サービス

美容業は,客を迎えるための工夫を考えるところは多いが,店主やスタッフ自らが客先まで足を運んでサービスを行う「出張サービス」を積極的に展開している業者は少ない。

介護が必要な人だけでなく,介護する人のおしゃれを手助けする出張美容サービスを行い,2か月先まで訪問予約が埋まっている店舗もある。

ポイントは,次回の予約までもらって帰るところにある。

「待つ仕事から出かける仕事」への転換が必要である。

② 客サービス

接客サービスを考える上で大切なことは,美容院の技術と顧客ニーズのマッチングである。

顧客ニーズとは,サロンに訪れる顧客が何を目的に来店されるかを考えることである。

そして,それらが顧客に「得した気分」,「感謝の気分」を付与できているかということである。

税務のポイント

 決算日前後の売上計上時期の確認

① 現金売上げ

基本的に現金商売であるため,売上金を当日又は翌日に銀行に入金するという管理が多い。この場合,期末日までの売上げを漏れなく売上高に計上する必要がある。

釣り銭のための現金や経費支払用の現金を残して銀行入金する,銀行への入金が1日遅れた,というような理由で期末日直前の売上げに計上漏れが生じることのないように注意する。

また,期末日前後の伝票やレジの記録,予約簿,顧客台帳と整合性があるか確認する。

現金の管理に関しては,経営者個人の現金と混同しないよう区別して管理する。

② カード売上げ

クレジットカードによる売上げはレジの記録等から売掛金を計上する。

③物販等の売上げ

シャンプーや化粧品,美容器具等を店に置いて販売している美容院も多いが,これらの売上げも漏れなく計上する。

また, これらを従業員に無償や原価以下の金額で譲渡すると,給与課税の対象になる。

在庫

決算日には,薬品等在庫の棚卸しを実施し,記録を保存しておく。

物販を行っている場合は,その商品の棚卸しも必要である。

設備投資

椅子やシャンプー台,内装等はときどきリニューアルする必要があるが,内装に関しては,修繕費か資本的支出かということが問題になる。

原状回復費用は修繕費,価値を高めるものは資本的支出であるが,判然としないものは60万円又は取得価額の10%以下なら修繕費,という形式基準もある(法基通7-8-1 ~ 7-8-9 )。

資本的支出に該当する場合は, 該当する既計上の内装設備を除却する。

消費税

基準期間の課税売上高5,000万円以下の場合は簡易課税を選択できるので, 節税の観点から検討すべきである。

また,簡易課税を選択した場合には,カットやパーマの売上げは第五種事業(サービス業)であるが,物販は第二種事業(小売業)なので区別することに留意する。