税務調査には「事実」と「解釈」がある
本来、望ましいことではありませんが、税務調査で経営者が税務調査官に対して腹を立てることがあります。
経営者と税務調査官の間にすれ違いが生じるのは、「事実は1つ。だが解釈は無数」だからです。
つまり、経営者の「解釈」と税務調査官の「解釈」に違いがあります。たとえば確定申告で所得が1000万円少なかったとします。これは「事実」です。では、この1000万円が少なかったのはなぜでしょうか。
経営者は計算ミスによって所得が漏れたと「解釈」します。一方、税務調査官は税金が減ると知りながら故意に漏らしたと「解釈」します。
そのため、税務調査では証拠を提示して、その「解釈」が正しいと証明していかなければいけません。
税務調査官は、自分の「常識」に基づいて解釈をしていきます。
「売上計上モレが3000万円ですか。ずいぶん高額ですが」
税務調査では、税務調査官はこのような言葉をつかうことがよくあります。しかし、3000万円が高額かどうかは、あくまで税務調査官の常識に基づいた「解釈」にすぎません。経営者にとっては、3000万円はまったく高いお金ではないかもしれないのです。しかし、これもあくまでも経営者の「解釈」です。
つまり、相手は相手の常識に基づく「解釈」があり、こちらにはこちらの「常識」に基づく解釈があることを、十分に認識しておく必要があるわけです。事実は1つですから、争っても仕方がありません。「解釈」について、「自分は~と解釈します」と説明して理解を求めます。
そのため、事前準備時に「事実」をどう「解釈」するか、明確にする必要があるのです。
税務調査官の本音
税務調査は経営者にとって非常に不安なものですが、実は税務調査官も不安がないわけではありません。税務調査官の本音を知ることで、税務調査に対する思い込みを払拭しましょう。
まず、理解してほしいのは、「税務調査官にはノルマ(目標)がある」ことです。
表向きは「ない」とされていますが、「年間で0件の税務調査を行う」などと目標は立てられています。その目標は各税務署に、そして各税務調査官に割り当てられています。民間の会社と同様にノルマ(目標)が設定されているわけです。
これをノルマと呼ぶかどうかは「解釈」の問題ですが、目標設定がなされていることは「事実」です。
税務調査官にノルマがあるとわかれば、本音が見えてきます。
税務調査が長引く不安
経営者は、税務調査が長引いて通常業務に手が回らず、売上・利益が減ってしまう不安を抱えています。これは税務調査官も同様です。一件の税務調査に時間がかかりすぎると、件数というノルマをこなせなくなってしまいます。
きちんと協力してくれない不安
経営者が「高圧的な調査官だったらどうしよう」と不安を抱えるのと同様、税務調査官も「経営者が協力してくれなかったらどうしよう」という不安を抱えています。
歓迎されない立場の税務調査官が、知らない会社で、知らない人と向かい合うわけですから、当然の心理と言えるでしょう。
増差が見つからない不安
増差とは増減差額のことで、申告した内容より所得や財産が「多い」または「少ない」ことを指します。当然、申告内容より所得などが多ければ、その分は納税しなければならないことになりますので、増差が多ければ多いほど、その税務調査官の評価につながります。
増差額の多寡にかかわらず、調査で発見された増差については調査官の評価になりますので、「小さなケアレスミスでも見つける」ことに必死です。
上長にきちんとした報告ができるか不安
税務調査官も、組織で働く人として、調査の結果を上長に報告する必要があります。長引いたあげくに何の成果もなければ、評価が下がってしまうのは当然です。そのため、上長にきちんと経緯と成果を報告できるかどうかも、税務調査官は不安に感じています。
税務調査は三位一体で進めるもの
税務調査官の本音を読み解くとわかるのは、「税務調査をスピーディに終えたい」という願いが、経営者と税務調査官に共通するものである、ということです。そのため、「早く、納得して終わらせる」ことを税務調査の目標設定にするならば、経営者の不安も解消されるのではないでしょうか。互いに協力し合って、調査を長引かせない姿勢が大切と言えます。
そのために求められるのは、経営者・経理担当者、税理士、税務調査官が、三位一体となって向き合い、交渉することです。経営者と税務調査官という2者だと、納税額ばかりに目が行き、綱引き状態になって落としどころが見つからないことも多いのですが、そこに経理担当者、税理士という立場の人が加わることで、交渉の幅が広がります。
また、税務調査官の中には無意識のうちに「早く終わらせよう」という人もいないわけではありません。このようなケースでも、税理士がいるとさまざまな視点から話ができますので、安心感があります。