税務調査の当日に注意すべきポイントは多くあります。

席次については、基本的に税務調査官と納税者が向かい合って座るほうが会話がしやすく、税務調査がスムーズに進むはずです。税務調査官がたとえば統括官と調査官など2人であれば、納税者は調査官の対面に座ります。税理士は納税者の隣、できれば左側のほうが、納税者にとって安心感があります。

また、妻などの家族が取締役に入っている場合には、統括官の対面に座ってもらいます。特に女性の場合、税務調査ではよく話をする人と、ほとんど話をしない人の2タイプがいます。

話をしないタイプの人ならよいのですが、よく話をするタイプの人だと余計なことまで言葉にしてしまい、税務調査の範囲が広がってしまったり、まったく問題ないところが問題として受け取られたりするおそれもあります。そのため、納税者と税理士の間に座って、発言しにくい環境を作るわけです。
税理士は、納税者と一緒に戦うよりも、調停する、税務調査官と納税者の価値を最大化することが役割です。そのため、少し第三者的な視点でいられる席がよいでしょう。

税務調査を最短で終わらせる

相手との信頼関係を築く。税務調査の交渉のポイントは、「価値の最大化」です。相手を言い負かせること、と誤解している人がいますが、これだと勝ち負けになってしまいます。仮に自分が勝っても相手は負けてしまいますから、「なにくそ」「絶対に次こそは」と次回以降、さらに厳しい調査をされてしまう可能性があります。

そのため、相互勝利を目指すのが交渉の基本となります。自分の価値を増やしながら、その価値も増やす。この価値の最大化を目指す必要があります。

そのベ-スとなるのは、相手との信頼関係です。税務調査官と信頼関係を結ぶことで、互いの価値が最大化される接点を見つけることができます。真撃な態度であったり、情報を提供する姿勢であったり、軽い雑談などでなごやかなム-ドを作り、税務調査を進めましょう。

調査当日の対応と交渉

税務調査では、論点を自・黒・グレ-の3つにわけることが大切です。実際、税務調査では白から黒へと話をつけていきます。

もし事前確定届出給与の支給にミスがあると、法律上の話題に移ったほうが得策です。

最後に話をするのがグレーです。たとえば「不動産管理会社の支払手数料の金額が適正かどうか」は解釈によってさまざまです。グレーについては、あらかじめピラミッドストラクチャーという資料を作っておくと、議論がしやすくなります。

条件付き譲歩・提案のメリットと注意点

譲歩・提案とは、意見が分かれている争点があれば、ある条件に応じてどのような結果になるかをあらかじめ合意するものです。

たとえば、現時点で契約書がある収入について、貸付金か売上かで意見の相違がある場合、金銭消費貸借があれば認めてください。もしなければ否認でいいですよ」など、「もし○○だったら○○してください」と条件を提示する方法です。

条件付き譲歩・提案には次のようなメリットがあります。
① 現状のお互いの認識だけで合意することができる→お互いの労力が少ない
② 税者・税理士・税務調査官のよりよい結果に対するモチベ-ションになる
③ 結果に対する納得感がある

もちろん、指示された資料は提出しなければいけませんが、その前に税務調査官の目的をきちんと把握して、条件を提示する必要があります。
「仕入れ先はすべてきちんと提示しますから、すべて認めてくださいね」
と、あらかじめ言質を取っておきます。資料を提出した後で、「まあ、それはそれで」などとあいまいにされ、外注先として認められなければ、交渉が進みません。

そのため、何か行動するとき、交渉が腰着している場合には、明確な条件を提示して、約束を取り付けることが大切です。

情報が一方に偏っている場合には、もう一方が不利になる可能性がある

たとえば納税者は、契約書があることがわかっていて、「もし契約書があれば是認させてください」と条件を出したとします。税務調査官は契約書があることを知りませんから、出来レースのようになってしまうわけです。
このような場合、税務調査官は納得できなくなりますので、誠実な対応をしてください。

税務調査官との合意可能領域を探ろう

税務調査では、納税者・経営者が妥協できる部分とできない部分があります。当然、税務調査官にも妥協できる部分とできない部分があります。
この2者の「合意できる」重なった部分が「合意可能領域」です。この合意可能領域のポイントについては、納税者と税理士の事前ミーティングであらかじめ決めておくことが大切です。

納税者と税理士の認識がずれてしまっていると、経営者は「これは妥協できない」と感じていても、税理士が勝手に「それでいいですよ」などと認めてしまう可能性もあります。もちろん、その逆の可能性もあり、いずれにしろ関係にヒビが入ってしまいます。

具体的には、事前ミーティングの「争点の洗い出し」の際に、納税者の希望を伝えておきます。税務調査中には、税務調査官の妥協できる範囲、できない範囲を見定めることがとても大切です。

問題は、「アンカーをどこに打つのか」です。納税者と税務調査官の合意可能領域のうち、税務調査官側の端っこに打つのがベストでしょう。「ギリギリOK」にアンカーを打つこ とができれば、納税者にとっては一番よい結果になります。

逆に、納税者側の端っこにアンカーを打ってしまうと、納税者にとっては合意可能領域を狭めてしまう可能性もあるということ。また、税務調査官が到底合意できないところにアンカーを打つと、信頼関係を壊しかねません。だからこそ、税務調査官がどこまで合意可能なのかを探ることが大切なのです。

税務調査官に税務調査官に先にアンカーを打たれてしまうこともあります。そのアンカーが十分に満足できるものであればよいのですが、たいていの場合はそうではありません。このようなケ-スでは次のような対策が考えられます。

情報と影響力を分離する

当初の妥協点と、合意可能領域を再度、確認して、自分の心理に与える影響を最小限に抑えます。同時に、相手が打ったアンカーを「情報」として受け取り、相手の妥協点を知る手がかりに利用します。

税務調査官のアンカーを検討しない

税務調査官にアンカーの根拠を求めたり、議論をしてしまうと、影響力を強めてしまう結果になってしまいがちです。根拠などについて質問することは避けましょう。話題を変えたり、自分たちの妥協点との隔たりがあることのみ伝えて、 アンカーの話題からそらします。

税務調査官にもメンツがあります。高いアンカーを打ち込んですぐに下げることはしませんそのため、「時間を置いて話しましょう」と、別の日程を提示し、メンツを保たせてあげることも必要です。税務調査官も、一度持ち帰って、統括や上席と打ち合わせするなどで冷静になる部分もあります。