業界の事情
不動産仲介業者(賃貸)は,不動産を賃貸する顧客と,賃借する顧客から依頼を受けて募集活動から契約までのすべての業務を行い,一般では「不動産業」と呼ばれ,正式には「宅地建物取引業」という。
主として賃貸物件の媒介や管理業務の代行による手数料収入が主な収益である。
ここ数年では個人事業者の廃業が特に多くなっている。地価公示によると,地価の動向は,東京圏では下落は収まり,都心部では横ばい・上昇している。
商業地においては利用価値で選ばれる土地と選ばれない土地の二極化が始まっている。
傾向として,大手業者や自らが建物を所有している業者は常に安定した収益を得られるが,小規模な業者にとっては景気や地価の変動等,さまざまな要素に左右されやすく,今後の経営に対する不安も大きいのが現状である。
経営のポイント
( 1 ) 地域密着型営業
① 地域の人脈を生かす
家を借りるということは,周辺環境を借りるということ。地域密着型の営業であれば周辺環境の正確な説明ができる。
また,情報収集や物件調査は地域を絞った方が効率よく,土地の相場が分かっているので,査定しやすい。
経営者は商店街の行事への参加等を通じて人脈がある場合が多く,この人脈を生かして有利に物件情報を収集したい。
② 類似物件の紹介
地域を絞り込めば賃貸物件を記憶しやすく,顧客が来店したときに類似物件をすぐに紹介できる。
(2)従業員の能力向上
① 物件調査ノウハウの蓄積
顧客から質問が多い事項や重要事項で説明が必要な項目は最低限すぐ答えられるように教育訓練しておく。
② 接客技術の向上
誠実に情報の公開と説明ができるようにする。
接客の際は,できるだけ相談を受けるスタンスで行い, 顧客の要望を正確に捉え,的確な物件を紹介できるようにする。
(3) インターネットの活用
インターネットは遠くに住んでいる顧客もアクセスできる。
直接店に足を運ばなくても事前に物件の情報が収集できるメリットがあり,ポイントは次のとおりである。
① 検索の容易さ
店頭では物件の仕分けはほとんどが地域別,最寄駅別で希望物件を探しにくく,営業時間の制約を受けるが,インターネットで地域別・価格別・駅からの距離別等,自由にいつでも検索できるように工夫すると使いやすく,アクセス数も伸びて店の認知度が高まる。
②情報の更新
インターネットはチラシに比べリアルタイムに更新でき,情報が新鮮であることが最大のメリットであり,情報の鮮度が悪いとアクセス数も減少することに留意する。
③ 双方向性の活用
顧客とメールのやり取りで事前に物件を検討しているため,成約率が高い。物件の詳細かつ迅速な回答で信頼を高めることができる。
税務のポイント
(1)賃貸業
① 敷金等の収益計上時期
一般的に,敷金は賃貸人の債権担保として賃貸借契約締結時に賃借人から預かり,契約終了時等に賃借人へ返還する預り金であると考えられている。
ところが,賃貸借契約等に基づいて敷金等として受領したものであっても,その金額のうち期間の経過その他その賃貸借契約等の終了前における一定の事由の発生により返還を要しないこと等を契約等で,謳っているような場合には,その返還を要しないこととなる金額については,その返還を要しないこととなった日の属する事業年度の益金の額に算入する(法基通2 – 1 -41)。
② 消費税
(イ) 店舗等併用住宅
店舗等併用住宅を貸し付ける際には,賃料を賃貸借契約において住宅に関わる賃料,店舗等に関わる賃料を合理的基準により明確に区分すれば,住宅に関わる賃料は非課税となる(消基通6-13-5)。
(ロ) 土地部分・建物部分を区分した賃貸借契約
事務所・店舗等事業用建物を賃貸する場合,建物部分の賃料と土地部分の賃料とに賃料を区分表示して賃貸借契約を締結したとしても,賃料全体が建物の賃貸料に該当することから,賃貸料全額が課税対象となる(消基通6 – 1-5注2)
(2)仲介業
① 仲介手数料の収益計上時期
宅地建物取扱業者が,不動産の仲介に当たって受ける報酬の収益計上時期は,原則として売買契約成立の日(=契約の効力発生日)であるが,商取引の慣例として売買契約成立の日と,契約者当事者間において代金決済が完了し不動産の引渡し(=不動産の所有権移転登記)がなされた日とに分割して仲介手数料を受け取ることも多いことから,税務上では継続適用を要件として,不動産の引渡しがなされた日に収益計上することも認められている。
ただし, 引渡し日に収益計上する場合においても,その日の前日までに収受した仲介手数料がある場合には,収受した日の益金の額に算入する(法基通2- 1 -11)。
② 土地仲介手数料の消費税
土地取引に関して,非課税として取り扱われるのは土地の売買又は貸付けに限られ,土地売買等に関わる仲介手数料は,土地売買等の斡旋手数料であり役務の提供と考えられるため,課税の対象となる(消基通6-1-6)。